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米NYタイムズ紙は自己の「不都合な真実」をこう伝えた

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5月16日のニューヨーク・タイムズ紙

客観性を旨とする新聞やテレビの報道で、最も客観性が保てないのは自分の会社の問題を報じる際だと言われる。1面トップで書いた誤報を訂正する際に、わずか数行の記事で済ませてしまうケースはよく指摘されるが、自社の内部の醜聞に近い暗闘を新聞が記事にすることはありえず、ましてテレビが放送することなど想像すらできない。
しかし、それが世界の常識というわけではない。ここに紹介するのは米国のニューヨーク・タイムズ紙が5月16日の一面に載せた記事(国際版)である。自社の編集トップの解雇に関するニュースだ。解雇されたのはニューヨーク・タイムズ紙で初の女性編集局長として華々しく報じられた人物だった。ニューヨーク・タイムズ紙で圧倒的な権限を持つオーナーのサルツバーガーとの確執が原因だったと思われる。現場のトップと圧倒的な力を持つオーナーとの確執、日本の新聞でも見られる社内の「不都合な真実」と言えるだろう。この記事には日本のメディアが考えなければいけない点がある。。(訳・整理アイ・アジア編集部)

「タイムズ紙は内紛からトップを解任」

ニューヨーク・タイムズ紙(以下、タイムズ紙)は突然のトップの交代で、ジル・エイブラムソン(Jill Abramson)編集局長を解雇し、編集局次長だったディーン・バケット(Dean Baquet)を編集局長に昇格させた。
タイムズ紙の発行人であり、親会社の「ニューヨーク・タイムズ・カンパニー」の会長でもあるアーサー・サルツバーガー・ジュニア(Arthur O. Sulzberger Jr.)は、この突然の人事に衝撃を受けた編集局内で水曜日に緊急の集会を開き、この決定は、「編集局のマネジメントを憂慮してのことだ」と語った。
解任されたエイブラムソンは60歳。編集局長には2011年9月に就任したばかりだった。しかし親会社の関係者は、突然の解任に至る状況には、サルツバーガーとエイブラムソンとの間の深刻な確執があっからだと話す。それによると、サルツバーガーは、編集局員からエイブラムソンの偏向とむらっけがもたらす懸念を耳にしてきたという。
その状況について知る関係者は、最近、バケットがエイブラムソンの決定に怒ったことがあったと証言した。それは、エイブラムソンが英ガーディアン紙(The Guardian)のジャニン・ギブソン(Janine Gibson)を、バケットへの相談無しにバケットと同格の編集局次長に据えようとしたことだった。それはエイブラムソンとバケットの関係を悪化させ、会長のサルツバーガーの知るところとなった。
エイブラムソンはコンサルタントを雇って彼女自身のマネジメントスタイルを変えようと試みていた。しかし関係者によると、サルツバーガーは彼女の更迭を今月中に決め、バケットに昇格を伝えたという。この関係者は、問題の性質上、情報源として名前を出すことはできないとしている。
タイムズ社とエイブラムソンとの合意によって、彼女の解雇については双方とも語ろうとしない。エイブラムソンは電子メールでのコメントの求めに応じていない。
バケットはタイムズ紙の編集局長に就任する最初のアフリカ系となる。エイブラムソンも、初めてのタイムズ紙の報道の全権を率いた女性ということで歴史を作った。エイブラムソンの3年に満たない期間での更迭は、編集局内の女性職員に少なからず失望を与えている。そして社内やマスコミ業界全体に、女性の幹部登用について逆風となるかのように受け取られかねない。
タイムズ紙のジャーナリストでエイブラムソンの友人でもあるジェーン・メイヤー(Jane Mayer)は、「ジル(エイブラムソン)が偉大なるジャーナリズムというものについて、またタイムズ紙という新聞について強い情熱を持っていることを知っている。ジルはとてもよく働くし、最も高いレベルを自分も含めて全てのジャーナリストに求める。ジルは力強く恐れを知らぬリーダーだ。みながそれを好むとは思わないが、それがジルをこの時代で最も優秀なジャーナリストにしていることは間違いない」と話した。
この混乱はタイムズ社にとって重要な年に起きた。タイムズ社は傘下のボストン・グローブ紙やアバウトドットコムなどを次々に売却し、成長のための新たな戦略を打ち立てていた最中だ。また最近は、アイフォンを対象とした新たな事業であるニューヨーク・タイムズ・ナウを始め、料理や様々な意見を紹介する商品の開発を手掛けようとしていた。
57歳のバケットは編集局長への就任にあたって、「編集局の意見をよく聴き、議論に関わり、けしてそこから逃げない。常に編集局を歩き回る」と語った。彼は、「それが唯一、私が知る編集責任者の手法だからだ」と語った。
バケットは、編集局員を前にエイブラムソンを称え、彼女は「偉大な大志の価値」を教えてくれたと語った。そして、ロサンゼルス・タイムズ時代に仕えたジョン・キャロル(John Carroll)についても触れ、「偉大なる編集責任者は人間的でもあることを教えてくれた」と語った。
バケットとサルツバーガーはともにエイブラムソンの取り組みを称えた。しかし、編集局長の任期は通常は65歳まであり、彼女の任期はそれよりも5年短いものだった。エイブラムソンが編集局長を務めた期間に、タイムズは8個のピューリッツァー賞を受賞。彼女自身も新聞とウエブの双方で称賛を得た。彼女は編集局長に就任する前、ワシントン支局長を務めた。その前は、ウォールストリート・ジャーナル紙の調査報道記者だった。彼女は、メイヤーと共著で最高裁判事のクラレンス・トーマスの就任前の議会での公聴会についてまとめた「ストレンジ・ジャスティス(Strange Justice)」を出している。
しかし編集局のトップとしては、局内での不協和音を招いたことや、局内のいくつのかの重要な部署についての人事について批判を受けていた。彼女が登用した人物は全て、任期を全うしなかった。
サルツバーガーが注意深く見る中で、エイブラムソンとバケットとの確執は悪化の一途をたどった。ある記事をめぐって、バケットが編集局内の壁を怒りにまかせて叩く姿が目撃されている。バケットはエイブラムソンが編集局長に就任する際に、編集局長の候補の1人だった。関係者の話によると、バケットはエイブラムソンの下で、不満を募らせていったという。
バケットは1990年に市内版の担当としてタイムズ紙の記者を始めた。彼は調査報道も行い、1995年に全国版のデスクとなった。タイムズ社に入る前は、タイムズ・ピカユーン紙とシカゴ・トリビューン紙で10年近く記者をやり、1988年に調査報道でピューリッツァー賞を受賞している。そしてロサンゼルス・タイムズでデスクと編集局次長を務めた後、2007年に再びタイムズ社に戻り、ワシントン支局長と編集局次長補佐を務めた。
エイブラムソンは、「私はタイムズでの仕事を愛していた」とのコメントを出した。エイブラムソンは、2007年にはトラックにはねられるという事故を乗り越えており、タフなジャーナリストとして知られる。彼女は、最近になってタイムズのイニシャルの「T」の刺青を彫っている。編集局長に就任することを、「我が人生最大の栄誉」と呼んでいた。
(2014年5月16日付のニューヨーク・タイムズ 「Times ousts editor after internal tensions」, Reporting was contributed by Leslie Kaufman, Sydney Ember, Jonathan Mahler and Noam Cohen.)
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