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[新型コロナFactCheck] 「日本の専門家『若い人も死亡しやすい』と警鐘」 香港紙報道は誤り

[新型コロナFactCheck] 「日本の専門家『若い人も死亡しやすい』と警鐘」 香港紙報道は誤り

香港の著名なメディア、「リンゴ日報」が「日本の医者は若者が感染すれば死亡しやすいと警鐘を鳴らす」という記事を配信した。日本の新聞記事を引用する形で、専門家の発言を紹介しているが、実際の発言とは大きく異なる。(池雅蓉)

チェック対象
日本の医者は若者が感染すれば死亡しやすいと警鐘を鳴らす 仏の16歳少女は軽い咳の一週間後に死亡』
日本には若者の新型コロナウイルスの感染者が増えてきて、専門家も若者が感染すれば、死亡しやすいと警鐘を鳴らした。(略) 日本政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家の尾身茂医師が、若者と児童が感染すれば、重症化するリスクがあると述べた。

香港・蘋果日報、2020年4月3日付記事
結論
【誤り】香港紙が引用した記事で、政府専門家会議の尾身副座長は「若者が感染すれば、死亡しやすい」という発言はしていない。記者会見では、「子供は重症化する可能性が低い」「若い人、小児が全く重症化することがないということではない」と述べていた。年齢別にみても重症者・死者は50代以上に集中している。

検証

香港のリンゴ日報(蘋果日報)の記事「日本の医者は若者が感染すれば死亡しやすいと警鐘を鳴らす・・・」は、毎日新聞の4月1日付記事に基づいて書かれたものだ。

リンゴ日報の記事には、「日本には若者の新型コロナウイルスの感染が増えてきて、専門家も若者が感染すれば、死亡しやすいと警鐘を鳴らした」(原文:日本感染武漢肺炎的年輕人也越來越多,當地專家警告年輕人感染也易死亡)、「日本政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家の尾身茂医師が、若者と児童が感染すれば、重症化するリスクがあると述べた」(原文:日本政府武漢肺炎對策專家小組成員尾身茂醫生指出,年輕人和兒童感染後有發展成重症的危險。)と書かれている。写真の説明文にも、「日本の専門家が、若者が新型コロナウイルス感染症に感染すると重症化しやすく、甚だしくは死亡に至る、と警告した」(原文:日本專家警告,年輕人感染武漢肺炎也易變重症,甚至死亡)と書いてある。

「尾身茂医師」とは、政府専門家会議の尾身副座長のことだ。同紙が引用した毎日新聞の記事には、次のような記述がある。

 新型コロナウイルス感染症を巡り、若者が重症化したり死亡したりするケースが海外で相次いで報告されている。国内でも若者の感染者が増えつつあり、専門家は「日本でも若者が死亡する可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
・・・(中略)・・・
 2月に発表された中国での大規模調査では、致死率は全体で2・3%なのに対し、10~30代は0・2%と低い。専門家会議の尾身氏は「若い人や小児が全く重症化しないことはない」と指摘。感染症に詳しいけいゆう病院(横浜市)の菅谷憲夫医師(小児科)も「生徒1000人の高校で全員が感染すると、2人が死亡する計算で、とても怖いウイルスだ」と強調。その上で「日本でも今後、感染者数が増えれば、若くても重症者や死亡者が出てくる」と警鐘を鳴らす。・・・(以下、略)・・・
毎日新聞2020年4月1日「新型コロナ、若者に化リスク 海外で相次ぐ死者 専門家『日本でも死亡の可能性』」

毎日新聞によると、尾身氏は「若い人や小児が全く重症化しないことはない」と指摘しているが、「若者が感染すれば、死亡しやすい」「重症化するリスクがある」とは言っていない。

菅谷憲夫医師は「日本でも今後、感染者数が増えれば、若くても重症者や死亡者が出てくる」とやや踏み込んだ発言をしているが、これは将来的な予測であり、「若者が感染すれば、死亡しやすい」と言っているわけではない。

政府専門家会議で若者の重症化リスクに言及する尾身茂副座長(THE PAGEのライブ中継動画=YouTube=より)

実際に政府専門家会議での若者の重症化・死亡リスクにどのように言及したかを調べたところ、次の通り、いくつか確認できた。その結果、「若者が感染したら、重篤化、死亡しやすい」という趣旨の発言はなかった。

政府専門家会議後の記者会見(3月19日)

尾身茂氏 「この感染症では、子供は重症化する可能性が低いと考えられています。一方では、中国などでは、重症化した事例も少数例ながら報告されており、さらに一般には重症化しにくい特性から、無症状または症状の軽い子供たちが、高齢者などを含む家族内感染を引き起こし、クラスター連鎖のきっかけとなる可能性があるという論文が見られております。」
THE PAGEの会見全文より

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(3月19日)
厚生労働省サイトより
政府専門家会議後の記者会見(4月1日)

尾身茂氏 「・・・感染した中で重症化するのは、これはもうはっきり分かってますね、年齢が高いほど多くなる。しかし、先ほども議論があるように、若い人、小児が全くその重症化することがないということではないので、今言った2点ですね、感染してしまう方、あるいは感染した時に重篤になるということ当初は、重篤になるのは高齢者だけ、感染させるのは若者ということで焦点を絞ってきたけども、ここになるとこの闘いはもう全世代で互い守り、行動する必要があるということがポイントだと思います」
THE PAGE 新型コロナ専門家会議記者会見(4月1日)=YouTubeより

 厚生労働省が公表した「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」(4月11日発表、10日18時点)によると、国内PCR検査陽性者数は5902人で(チャーター便、クルーズ船を除く)、死者数は94人、重症者122人。年齢別で見ると、死者94人中、40代は2人、30代以下はゼロ。重症者も122人中、40代以下は16人となっている。このため、現時点のデータを踏まえて、日本の専門家が「若者が感染すれば、死亡しやすい」という根拠の無い警鐘を鳴らすことは考えられない。

厚生労働省発表資料東洋経済オンラインをもとに、INFACT作成

結論

政府専門家会議の尾身副座長は、「子供は重症化する可能性が低い」と述べている。「日本の専門家が『若者が感染すれば死亡しやすい』と警鐘を鳴らした」という香港紙の報道は、日本の専門家の意見を誤訳したか意図的に内容を変えて報じたもので、「誤り」と判定した。

(冒頭写真は、香港・蘋果日報、2020年4月3日付記事のスクリーンショット)

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