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[新型コロナFactCheck] 「(6月中旬)東京都が桁違いに検査数を増やした」は本当か?

[新型コロナFactCheck] 「(6月中旬)東京都が桁違いに検査数を増やした」は本当か?

東京都で行われている新型コロナウイルス検査について、「こんなに桁違いに検査数を増やした」などとするグラフ画像付きの投稿が拡散した。だが、元のデータの集計方法が大きく変更されたことによるもので、最近になってPCR検査数が桁違いに急増したという事実はない。(楊井人文、大船怜)

チェック対象
東京都の新コロナ陽性者数が地道に増えてるって話題だけど、・・・こんな桁違いに増やしたのに陽性者がこんだけしか増えてないってのは、・・・(以下、略)(東洋経済オンラインのグラフ画像添付あり)
(Twitter、2020年6月28日投稿)
結論
【誤り】厚労省は6月17日から、東京都の検査実施人数を、それまで除外していた「医療機関による保険適用での検査人数」を含めて発表するようになり、そのデータを元に東洋経済オンラインのグラフが掲載されていた。実際の東京都の検査実施人数が桁違いに急増した事実はない。
Twitter投稿(2020年6月28日)

検証

投稿に添付された画像は、東洋経済オンラインの「新型コロナウイルス国内感染の状況」という特設サイトから、「東京都の検査陽性者数」と「東京都のPCR検査人数」の項目を引用している。

グラフでは、確かにPCR検査人数が6月18日あたりから急増したように見える。しかし、サイトには「データソースは厚生労働省による都道府県発表の転記。土日祝日は検査をしていても厚生労働省に報告が行われず検査数「0」となる場合がある」「6月17日以降の東京都は医療機関における保険適用での検査人数も含む」「基準変更によって前日との継続性がない日は新規増減を0と見なし、グラフの色を変えている」という注記がある。実際、棒グラフの色は6月17日以降、青から緑に変化している。

東洋経済オンライン特設サイトの「東京都のPCR検査人数」グラフ(6月29日時点)。注記に「6月17日以降の東京都は医療機関における保険適用での検査人数も含む。」とある。

東京都がデータを公表している公式の特設サイトでは、「PCR検査の陽性率」という項目で、5月7日以降、医療機関での保険適用検査を含むデータが掲載されている(5月7日以前は保険適用検査含まず)。これを見てわかる通り、PCR検査実施人数(陽性者数と陰性者数を足した数)は緩やかな増加傾向にあるものの、「桁違いに増やした」とまでは言えない。

ただし、「速報値として公表するものであり、後日確定データとして修正される場合がある」と注記されているように、この情報は日々、過去にさかのぼって更新されている。そのため、後述する厚労省の発表値ともズレが生じるので、要注意だ。

表は東京都特設サイトのデータ(7月3日午後5時ごろダウンロード)により作成。その後、日々の更新により、現在のサイト上の数値と異なっている場合がある

厚労省が発表方法を6月17日分から変更

では、東洋経済オンラインの特設サイトのグラフは、なぜ東京都のPCR検査人数が「急増」したように表示されてしまったのか。

先ほど確認した注記にあるように、グラフのデータソースは厚生労働省の日々の報道発表資料だ。この中に、東京都の陽性者数と検査実施人数の累計データ(1日あたりのデータではなく、1月15日以降の累計データ)が記載された資料がある。「新型コロナウイルス陽性者数(チャーター便帰国者を除く)とPCR検査実施人数(都道府県別)」というタイトルの資料だ。

6月17日発表資料(6月16日までの累計データ)には次のような注記がある。

※1 東京都の検査実施人数には、医療機関による保険適用での検査人数、チャーター機帰国者、クルーズ船乗客等は含まれていない。

次に、6月18日発表資料(6月17日までの累計データ)を見てみると、次のような注記がある。

※1 東京都の検査実施人数については、5月7日以降は(1)東京都健康安全研究センター、(2)PCRセンター(地域外来・検査センター)、(3)医療機関での保険適用検査実績により算出しているが、4月10日~5月6日は、(3)が含まれず(1)(2)のみ、4月9日以前は(2)(3)が含まれず(1)のみのデータにより算出している。

つまり、6月16日までの累計データには、「医療機関による保険適用での検査人数など」が含まれていなかったが、6月17日からのデータには、「医療機関による保険適用での検査人数など」を含めて発表されるようになったということだ。

厚労省の6月11〜21日発表分のデータを抽出すると、次の表の通りとなる。この陽性者数・検査実施人数の累計データの「前日との差分」が、「1日あたりの検査実施人数」として、東洋経済オンラインのサイトのグラフに反映されていたことになる(実際にこの差分とグラフのデータは一致している)。

【7/7追記】

7月3日、東洋経済オンライン特設サイトは、東京都の検査人数のデータを過去にさかのぼって修正した。東京都発表と同じく、5月7日のデータから医療機関における保険適用分を含むものに修正され、棒グラフの色分けもより見やすいものに変更された。「よくあるご質問」に「Q. 東京都のPCR検査人数が5月から大きく増加しているのはなぜですか?」という項目も追加された。6月中旬ごろに検査人数が「桁違い」に増加したとの誤解が広がったことを受けての対応とみられる。

東洋経済オンライン特設サイトの「東京都のPCR検査人数」グラフ(7月6日時点)。注記に「東京都の数字は5/7以降より医療機関による保険適用分を含む」と記載された。

結論

厚労省は6月17日から、東京都の検査実施人数を、それまで除外していた「医療機関による保険適用での検査人数」を含めた数値にして発表する方式に変更したため、急増しているように見えるだけで、実際の東京都の検査実施人数が桁違いに急増した事実はない。よって、東京都が最近になって桁違いに検査数を増やしたとの情報は、誤りである。

(冒頭写真は、Twitter投稿に添付された東洋経済オンラインのグラフのスクリーンショット)

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