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[コロナの時代]ファクトチェック: 大阪府の吉村知事「保健所の削減は太田府政時代」はミスリード

[コロナの時代]ファクトチェック: 大阪府の吉村知事「保健所の削減は太田府政時代」はミスリード

新型コロナウイルス対策でその存在感を示している大阪府の吉村洋文知事。この吉村知事自身が4月「保健所の削減は太田府政時代」とツイッターに書き込んだ。橋下府政から吉村府政につながる維新府政の前の太田府政で保健所のリストラが行われたという印象を与える内容だが、これは事実ではなく誤解を与えるものだ。(立岩陽一郎)

チェック対象
保健所の削減は太田府政時代ですよ。(…)平成16年、太田府政の時、本所支所府内合計28ヵ所あった保健所を、府内14ヵ所に統合しました。太田府政の時代です。橋下府政時代に保健所は削減していません(勿論、中核都市移行は除く)
(Twitter、2020年4月13日投稿)
結論
【ミスリード】 太田府政時代に行われた保健所の削減は、府の担当部によると、効率化のための支所の統合であり、人員削減をしたわけではない。あたかもリストラが行われたかのような印象を与える。

「古市氏」とは社会学者の古市憲寿氏、「太田府政」とは橋下氏が知事を務める前の知事だった太田房江氏で、現在は自民党選出の参議院議員を指している。

吉村知事のツイートは、4月12日放送のフジテレビ「Mr.サンデー発 宮根×太田 いまこそニッポンを変えませんか?スペシャル」というトーク番組でのやり取りに絡んだものだ。地方行政の財政実態の話題の中で、古市氏から橋下徹氏(元大阪市長)に「カットしすぎたなということはないんですか?保健所の縮小とか」と問いかけ、橋下氏は「あれは縮小やなくて強化」と応じている。

この発言について、翌4月13日、太田議員が自身のツイッターで「維新はいつまで他人の責任にしてんねん?古市さんに保健所のリストラ突っ込まれてゴマかしていたけど私の目はゴマかせませんからね」と発信した

太田議員がここで言う「維新」とは、太田氏以後、現在までの大阪府知事が「大阪維新の会」出身者(橋下氏、松井一郎・現大阪市長、吉村知事)であることを指している。

吉村知事のツイッターの発言は、この太田議員のツイートへの反論として発信されたものだ。では、吉村知事のツイッターでの発言は正しいのか。検証した。

太田府政での保健所数減少 府は「人員削減ではない」と説明

大阪府健康医療部(以後、健康医療部)は、

「平成16年(2004年)の太田府政時代、保健所数は32から18に減りました。このうち4は中核市なので、中核市を除くと28から14に減らしたことになります」

と説明した。大阪市などの政令指定都市に加えて、中核市(人口20万人以上)は、直営で保健所を設置できることになっている。

これが吉村知事も述べている統合だ。では、これは「削減」と言えるのか。
健康医療部は次のように話している。

「リストラではなく、14あった支所を本所に統合したものです。業務効率化と専門性を高めるための行政改革でした」

リストラではない。つまり人員削減ではないということだ。

その説明が事実かどうかを確認するために、保健所で働く職員の数の推移を調べてみた。データが大阪府庁に残っている2003年以降で確認したところ、下のグラフのようになる。数値は4月時のもので、グラフの青は正規職員、緑は非正規職員を示す。2004年~2007年のデータは健康医療部から提出されなかったので空欄になっている。

ここから、太田府政時代には職員数が54人減少していることがわかる。これについて、健康医療部は、2007年に保健所が担っていた精神保健業務を市町村に移管したためで「削減ではない」と説明した。

維新府政 保健所人員の一部が中核市に異動

ちなみに、維新府政時代はどうか。
橋下府政時代の2008年には、保健所の危機管理担当の医師を本庁勤務とする業務改革が行われた。これによって大阪府の保健所の人員は減ったが、減った人員は市町村や本庁に業務ごと異動となっており、健康医療部は、この人員減少も「削減ではない」と話す。

橋下府政時代は、正規職員の数だけでみると56人減少しているが、逆に、非正規職員と合算すると12人増えていた。正規職員の仕事を非正規職員にさせる問題はあるとしても、少なくとも総体として職員数が減ったということではない。

その後の松井府政時代は、正規職員で91人、非正規職員で38人の計129人減少している。しかしこれも調べると、この期間に、豊中市、枚方市、八尾市が中核市へ移行しており、これも削減ではなかった。これは吉村知事がツイートで触れている内容と符合する。

確認できた範囲では、保健所新設時に枚方市に58人、八尾市に正規職員50人、非正規職員13人が配置されていた。豊中市からは回答を得られなかったが、枚方、八尾の2市の傾向から、1中核市が新設すると50~60人の人員移動があると仮定すると、3市の中核市移行で大阪府から各市に計150~180人の人員異動があったと考えられる。すると、この期間の大阪府の保健所職員数の減少数である129人と大きくは変わらない。

そして2019年4月以降の吉村府政時代だが、正規職員55人、非正規職員7人の減少があったが、これも寝屋川市、吹田市の中核市移行による人員異動があったためだ。この2市からは新設時と現在の人数について回答は得られなかったが、上記のように1中核市の新設で50~60人が大阪府から異動したと考えると、この期間中の減少数も中核市移行によるもので、削減ではないと考えて良いだろう。

太田府政、維新府政下で、検査技師は削減されていた

ただし、削減が全く行われていなかったわけではないようだ。保健所の役職のひとつである「臨床・衛生検査技師」だ。これは、新型コロナウイルスのPCR検査を担う重要な医療専門職だ。

太田府政時代で9人、維新府政時代で15人減少している。保険医療部は「検査数減少による見直し、という以上のことは資料が残っていない」と話しており、「削減ではない」との説明をしなかった。つまり、皮肉にも、この新型コロナ禍で最も重要な役割を担う職員が削減されていた可能性が否定できないわけだが、このことは太田府政、続く維新府政でともに対応は同じということになる。

結論

以上をまとめると、大阪府における「保健所の削減」は主に統合や中核都市への移管であって、いわゆる「削減」ではない。吉村知事はツイッターの中で、「太田府政の時、本所支所府内合計28ヵ所あった保健所を、府内14ヵ所に統合しました」と正確な情報を伝えているが、対象言説とした「保健所の削減は太田府政時代ですよ」を冒頭で強調して書くことで、それがあたかもリストラとして行われたかのような誤った印象を与えるものとなっている。

その一方で、「臨床・衛生検査技師」については太田府政、維新府政ともに削減していた可能性が否定できない。この点について吉村知事は触れていない。

こうした状況を考えると、吉村知事のツイッターでの発言は、誤りとは言えないものの、事実と異なる印象を与えるものとなっており「ミスリード」と判定する。

(冒頭写真:定例記者会見での吉村知事=MBS放送より)

(インファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加しており、この記事にはFIJリサーチャーの丹羽智佳子氏が協力している。)

INFACTはファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のメディアパートナーに加盟しています。この記事は、INFACTのファクトチェック基本方針、およびFIJのレーティング基準に基づいて作成しました。FIJ編集委員会でガイドラインを満たすと判断されると、こちらのページにも掲載されます

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