インファクト

調査報道とファクトチェックで新しいジャーナリズムを創造します

[FactCheck] 「李登輝元総統の生前インタビュー NHKが5年封印」 台湾メディアの報道は誤り

[FactCheck] 「李登輝元総統の生前インタビュー NHKが5年封印」 台湾メディアの報道は誤り

台湾の李登輝元総統の死去を受けてNHKが生前インタビューを放送したが、その映像が5年間、中国政府などの圧力で封印されていたと現地メディアが報道した。だが、実際は当時、NHK衛星放送でインタビュー映像が流されていた。(楊井人文)

チェック対象
李登輝逝去 「台湾は中国に属せず」堅持 NHKの単独取材、5年の封印

李登輝元総統は7月30日逝去した。彼が2015年に日本のNHKから取材を受けた際「中国は中国、台湾は台湾」と改めて主張。しかし、当時中国政府の抗議を受けてインタビュー映像が5年封印され、死去後にようやく公開、放送されるに至った。
自由時報電子版、2020年8月4日掲載。原文は中国語 【追記】8月7日に見出し・当該記述が修正された)

結論
【誤り】 NHKは、2015年7月訪日した李登輝氏を単独インタビューした内容の一部を、同年7月30日の衛星放送(BS1)で報道した。地上波のNHK総合では流れていなかったが、5年間全く放送せず封印していたというのは事実でない。

台湾の李登輝元総統が7月30日、死去したことを受け、NHKは翌日、生前インタビューの内容を報じた。これに関連して、自由時報電子版など複数の台湾の現地メディアが、李登輝氏のインタビューが中国政府の抗議で5年間封印されていた、と相次いで報じた。

NHK広報部に、李登輝氏のインタビュー映像を中国政府の抗議を受けて5年間封印したのは事実かどうか確認したところ、8月6日、以下の回答があった。

ご質問にある映像は、2015年7月に訪日した李登輝元総統に都内でインタビュー取材した際のものです。
このインタビューの内容は、2015年7月30日午後10時からのNHK BS1「国際報道2015」で放送しており、ご指摘のような事実はありません。

李登輝元総統は、2015年7月21日〜26日、日本を訪問し、国会議員会館での講演などの日程をこなした。NHKによる取材はこの期間中に行われたものとみられる。

NHK広報部によると、李登輝氏へのインタビュー内容は、訪日の模様を取り上げた3分半程度のニュースの中で、その一部が放送されたという。ただ、取り上げられたのはこの一回で、当時、地上波のNHK総合では放送されなかったという。今年1月には、NHKのサイトに掲載された記事で、インタビューの一部が紹介されていた。

李登輝氏死去を受けて生前インタビューを放送したNHK(2020年7月31日19時放送、ニュース7)より、筆者撮影

李登輝氏が死去した後の今年7月31日、NHK総合の「ニュース7」で数十秒、「ニュースウォッチ9」では十秒程度、インタビューの模様が放送された。その中に「中国は中国、台湾は台湾」という発言は含まれていなかった。ただ、BS1「国際報道2020」では詳しく取り上げられ、2分半程度のインタビュー映像でその発言も取り上げられていた。ウェブ版記事も掲載された(「台湾は日本の生命共同体」李登輝元総統 日本への思いは…)。

台湾では、8月3日以降、NHKによる李登輝氏の生前インタビューが5年間封印されたとの報道が相次いだ(中央社リンゴ日報など)。李登輝氏の死去後、当時インタビューに同席した台湾側の人物により、映像が封印されていたと指摘するFacebook投稿があり、台湾メディアはその証言をもとに報道したとみられる。

【8/8追記】 自由時報は8月7日見出しを「李登輝逝去 「台湾は中国に属せず」堅持 NHKの単独取材を放映」と変更し、本文の記述も修正した。中央社は記事を削除した(Yahoo!には記事が残っている)。

結論

2015年7月、李登輝元総統が来日した時のインタビューの内容の一部が当時、NHKのBS1で放送されていた。地上波のNHKでは放送されていなかったが、「5年間封印されていた」というのは事実と異なるため、「誤り」とした。

(冒頭写真は、自由時報電子版のスクリーンショット)

レーティング基準

Return Top