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[FactCheck] 「国交省、北海道に中国人500万人移住計画を発表」は誤り 3年前の動画が再拡散

[FactCheck] 「国交省、北海道に中国人500万人移住計画を発表」は誤り 3年前の動画が再拡散

国土交通省が、北海道の人口を1000万人に倍増させることを計画し、そのための施策として中国人500万人の移住を発表した、とのツイートが拡散している。これは3年前のネット番組の動画が再拡散したもので、「計画」の根拠とされた会合の提言内容や位置付けを調査した。(楊井人文、田島輔)

チェック対象
国交省、北海道に中国人500万人移住計画を発表!!!人口の半分が中国人へ
(2020年8月26日、まとめサイトをシェアしたツイッター投稿)
結論
【誤り】 2005年に国交省と北海道開発局が主催した会合で、民間企業の社長による「北海道人口1000万人戦略」と題する講演が行われ、移住者を増やして人口を1000万人にする構想が語られたものの、国交省がそうした計画を策定、発表した事実はない。
Twitter、2020年8月26日投稿

国交省が「北海道の人口を倍増させるために、中国人500万人を移住させる旨の計画を発表した」とのツイートは、5100件以上リツイートされ、4500件以上のいいね!がついている。これ以外にも、同内容の動画をシェアしたツイートなど、複数の投稿が拡散している。

3年前のネット番組動画が拡散

これらの記事や動画が上記計画の存在を主張している根拠をみると、元北海道議会議員である小野寺まさる氏が2017年8月24日、インターネット番組『虎ノ門ニュース』で行った以下の発言だった。

小野寺氏はこれより約半年前の2017年2月、ツイッターで「中国資本提案の『北海道人口1000万人戦略』のワナ」と題する産経新聞の記事(2017年2月25日付)シェアしていた。この記事は、2005(平成17)年5月に国土交通省と北海道開発局が主催する「夢未来懇談会」という会合で、中国出身の民間企業社長が「北海道人口1000万人戦略」と題して講演したことに触れたものだ。

2005年の民間人の提言の一つだった

調べてみると、当時の広報資料「開発こうほう」2005年8月号に、北海道開発局の「北海道夢未来懇談会の活動と提言」と題した記事があった。その中で、外国人メンバーから「北海道は人口1千万人を受け入れるキャパシティがあるので、北海道独自の入管法を制定し、海外の人を呼び込む方策があるのでは」という意見が出たことが紹介されていた。

さらに調べると、この「北海道夢未来懇談会」のアーカイブサイトが見つかった。懇談会は大学教授、民間企業社長ら15人のメンバーから構成。毎回、各メンバーが北海道の将来像に関する提言を発表し、意見交換が行われるスタイルで10回の会合が行われていた。

民間人メンバーから「北海道人口1000万人戦略」の発表が行われた第6回北海道夢未来懇談会、2005年5月9日(アーカイブサイトより)

その第6回懇談会では、3人のメンバーがそれぞれ「基調報告」を行い、意見交換がなされていた(議事概要)。この日2つ目の報告が「北海道人口1000万人戦略」と題し、中国出身の民間企業社長が発表したものだった。「海外からの労働力を本格的呼ぶ」「北海道独自の入国管理法を制定」といった内容に加え、「移住者を200万に」という提言も書かれていた。だが、移住者「500万人」は掲げておらず、「中国人」に限定したものではなかった。

しかも、これはあくまで民間メンバー15人のうち1人の提言だ。懇談会の提言書の目次をみると「1000万人戦略」は15人の提言のうちの一つに過ぎず、懇談会を代表する見解として書かれたようにみえない。懇談会自体は北海道開発局が事務局となり開催されたものだが、提言の内容は民間メンバーがそれぞれの考えを発表したもので、北海道開発局が主体的に策定・発表したものとは言えない。

小野寺氏は、今年1月にもツイッターで「北海道1000万人計画」の根拠として、この産経の記事を再び提示した。一方で、「国で北海道一千万人計画は策定しておらず、私もそんな事は言ってません」と、かつての発言を軌道修正していた

北海道開発局も取材に対し「国交省・北海道開発局が『北海道1000万人計画、中国人500万人移住計画』を発表したというのは、根も葉もない話」(開発計画課の横田課長補佐)と否定した。

国の計画では北海道人口目標なし

では、外国人を大量に移住させて北海道の人口を増やす、という計画は実際にないのか。実は、国は、法律に基づき「北海道総合開発計画」を定めている。安倍内閣が2016年3月閣議決定で策定した10カ年計画(2025年まで)では「北海道人口の数値目標のようなものは全く定めていません」(前出の横田課長補佐)という。実際、計画には「1000万人計画」どころか「人口増」の目標すら掲げられていない。同計画は、次のような人口減少の見通しを前提に策定されている。

北海道では、全国よりも10年程度先行して人口減少が進展しており、総人口は、2014 年の540万人から2040年には419万人まで減少、人口減少のスピードは今後加速する見通しである。また、高齢化率は、2014年の28%から2040年には41%まで上昇すると見込まれている。
北海道総合開発計画(2016年3月策定)(p.7)

計画には、「移住促進」の文言は散見されるが、「定住人口の維持・増加を図るため、北海道の豊かな自然や変化に富んだ四季、ゆとり ある空間等の居住環境の魅力を活かして、UIJターン等の移住や、二地域居住、二地域生活・就労など複数の生活拠点を持つ新たなライフスタイル、長期滞在を促進する」といった抽象的な文言しかない。

北海道への移住を促進する具体的な施策はとっていないのか尋ねてみたが、「直接的に移住を促進する施策はとっていません。インフラを充実するとか、間接的に移住を促進するしかありません」(前出の横田課長補佐)との回答だった。

もちろん、2005年に一民間人が提言した「北海道独自の入国管理法」も制定されていないし、その動きもない(特区のページ参照)。

結論

以上のとおり、「北海道人口1000万人戦略」は、2005年に国交省・北海道開発局が主催した会合での懇談会で、中国出身の民間企業社長が行った提言の一つに過ぎず、国交省が主体的に策定、発表したものではなかった。また、この提言には外国人移住促進策が盛り込まれているが、「中国人500万人移住」は盛り込まれておらず、現在の国の計画にも外国人の移住促進による人口増の計画はない。

3年前のネット番組の動画が再び拡散した理由は不明だが、いずれにせよ「北海道に中国人500万人移住させる計画」が国交省により策定、発表されたという言説は「誤り」と判定した。

(冒頭写真:YouTube動画のスクリーンショットより)

【修正】北海道夢未来懇談会の第6回会合の記述について、「北海道人口1000万人戦略」がその日行われた3つの基調報告のうちの1つであることを明記し、加筆修正しました。

(インファクトはFIJの新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加しており、この記事の調査にはFIJのリサーチャーの米田由実氏、インファクトのインターン洪果氏も協力した。)

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