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[コロナの時代]ファクトチェック: 大阪の重症者増の理由は「早めに気管切開し、人工呼吸器をつけている」? 吉村知事発言は根拠不明

[コロナの時代]ファクトチェック: 大阪の重症者増の理由は「早めに気管切開し、人工呼吸器をつけている」? 吉村知事発言は根拠不明

8月上旬、大阪府の新型コロナ重症者数が増加したことについて、吉村洋文知事が14日の記者会見で「大阪の場合は、死者をできるだけ減らしたいということで、できるだけ早めに気管切開をして、人工呼吸器をつけて、そして命を救う治療を優先している」と説明した。しかし、この発言の根拠は大阪府の担当部署も確認していなかった。吉村知事はその後、発言を事実上、修正している。(立岩陽一郎)

チェック対象
(大阪府内で重症者数が多いことを問われた際、記者に語った発言)治療的な観点でいくと、僕が報告受けているのが、大阪の場合は、死者をできるだけ減らしたいということで、できるだけ早めに気管切開をして、人工呼吸器をつけて、そして命を救う治療を優先している。
(吉村洋文知事の2020年8月14日記者会見での発言)
結論
【根拠不明】 大阪で重症者が多い理由に「人工呼吸器を早めにつけている」という吉村知事の説明は複数の医師に否定され、大阪府の担当部署も根拠はわからないとしている。吉村知事自身もその後に発言を事実上修正している。

まず、8月14日の質疑の前提となる大阪府内の重症者の推移を見てみたい。会見の日の8月14日が64人で、前日発表より11人も増えた。吉村知事は常日頃から重症者の数と重症者用病床の占有率を注視するとしてきたため、記者からこの点について質問が出たものだ。大阪府は8月中旬まで70人前後で推移していたが、現在は減少に転じている。

東洋経済オンライン 新型コロナウイルス特設サイトより

大阪と東京で重症者の定義に違い
重症者の定義は、厚生労働省によると、①人工呼吸器を装着、②体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)を装着、③ICU集中治療室で治療中のいずれかに該当する患者としている。(新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き 第2版より)

大阪府に確認すると、大阪はこれ以外にも、気管挿管を行っただけの患者でも重症者に含めている。一方、東京都はICUで治療しているだけでは重症者とは計算しておらず、都道府県によって重症者の計算の仕方が異なっている。その結果、大阪府が東京都より重症者が多く出る傾向があることは間違いない。

複数の医師が吉村知事の発言を否定

吉村知事は、「早めに気管切開をして、人工呼吸器をつけて」との発言について、大阪府の対策会議に参加している医師から聴いた話としている。この発言に対しては様々な異論が在阪の医師から表明されている。大阪大学医学部病理学教授の仲野徹氏は、吉村知事の発言について、「大阪だけ治療が違うということはありえない」とTwitterで反論している

また、白野倫徳・感染症内科医長(大阪市立総合医療センター)も「各地の医療関係者とも情報交換しているが、大阪で他地域より早く人工呼吸器を装着している状況ではない」と読売新聞の取材に答えている

ただし、吉村知事がそう聴いたという以上、吉村知事の発言を否定することは難しい。一部でもそうした措置がとられている可能性が否定できないからだ。

大阪府の担当課も「根拠はわからない」

では、仮にそうだとして、それが理由で大阪府の重症者数は多くなっているのだろうか?インファクトでは大阪府の感染症対策課に吉村知事の発言を確認した。以下は担当者とのやり取り(9月2日)。

Q.吉村知事の発言にある大阪は死亡者を減らすために人工呼吸器を取り付けるなどの処置を行うために重症者数が多く出るというのは、根拠はあるのか?
A.あの発言は感染症対策課としてまとめた内容ではなく、感染症対策課にも知事の発言を裏付ける資料はない。

Q.では、根拠はない?
A.感染症対策課でまとめたものではなく知事の発言の根拠はわからない。

Q.確認だが、知事が言っているような本来は重症者とならないのに重症者として計算されているケースは報告されているのか?されているとしたら、どのくらいあるのか?
A.重症者の数は各地から上がってくるが、その内容の詳しい状況を大阪府として確認しているわけではない。あくまで数字として上がっているものを計上している。

以上が大阪府の担当部署とのやり取りだ。つまり、吉村知事の発言は自身が医師から聴いたという以外に根拠はなく、担当部署でさえ確認できない内容ということだ。

吉村知事はその後、その説明を事実上修正している。
9月3日に出演した毎日放送の情報番組「ミント」では、重症者が多い理由について、重症者の多くが高齢者だとしたうえで、「大阪は都市だが、(生活習慣として)高齢者と若い人との距離が近い」と話し、家族関係の中で感染した若い人から高齢者に感染が広がっている可能性を指摘した。8月14日の時のような説明には言及しなかった。

結論

以上により、大阪府で重症者が多い理由を説明した吉村知事の「治療的な観点でいくと、僕が報告受けているのが、大阪の場合は、死者をできるだけ減らしたいということで、できるだけ早めに気管切開をして、人工呼吸器をつけて、そして命を救う治療を優先している」という発言は、そうした医療行為が全く行われていないとは言い切れないものの、大阪府の担当部署も、それが大阪府の重症者数の多さを説明する根拠かはわからないとしている。

また、吉村知事自身がその後に事実上発言を修正している点から見ても、その発言は「根拠不明」と判定した。

(冒頭写真:吉村洋文知事の8月14日記者会見。報道ステーション8月18日放送よりインファクト撮影)

(InFactはFIJの新型コロナ国際ファクトチェック・プロジェクトに参加しています。この記事には、FIJリサーチャーの岩崎真夕氏、InFactインターンの吉岡稔理氏の協力を得ました。)

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