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[FactCheck] 「トランプ大統領の所得税が少なかった理由は多額の寄付」との根拠不明情報が拡散

[FactCheck] 「トランプ大統領の所得税が少なかった理由は多額の寄付」との根拠不明情報が拡散

トランプ大統領の2016年、17年の所得税が極めて少ない金額だったと報じられたことに関し、その理由はトランプ氏が退役軍人の支援で多額の寄付をしていたからだという言説がネット上で拡散しているが、その根拠は定かでない。(田島輔)

チェック対象
米国大統領選挙の討論会で、バイデン陣営は、「トランプが所得税を支払っていない」と噛みついた。トランプは「理由をハッキリさせる」というだけで明確な回答はしなかった。そしてその理由が明確となった・・・オバマ政権で虐げられ不遇な目に合った、退役軍人の支援の為、2016年には財団から18万ドル、個人で542万ドル、合計で560万ドルを寄付した。寄付の税金控除で所得税を支払わなくてよくなった・・・という話し。
(2020年10月7日、匿名アカウントのツイッター投稿)
結論
【根拠不明】 トランプ大統領の高額所得を踏まえれば、仮に多額の寄付を行っていたとしてもそれだけで所得税の額が750ドルになることはありえない。2016年に退役軍人団体に合計560万ドルを寄付した事実も確認できない
2020年10月7日Tiwtter投稿のスクリーンショット

トランプ大統領が2016年・17年の納税額がそれぞれ750ドルだったとの米紙ニューヨークタイムズの報道を受け、2020年9月30日に開催された米大統領討論会でトランプ大統領は、バイデン候補から「申告書を公開しろ」と要求されるなど、自身の納税問題を厳しく追及された。

これに対し、トランプ大統領が所得税を支払っていないのは、退役軍人支援の寄付による寄付金控除により所得税を支払う必要がなくなったためだと日本語で書かれたツイートが拡散。2.4万件リツイート、6.6万件のいいね!がついている。

退役軍人団体への寄付の事実は?

トランプ大統領は2016年の大統領選挙の際、退役軍人支援集会を開いて560万ドルを集め、約40の退役軍人団体に寄付したと主張していた(産経新聞)。だが、トランプ大統領はそれを証明する納税申告書を明らかにしておらず、本当に寄付が行われたかどうかは定かではない。当時、ワシントンポストが400以上の退役軍人団体に確認したところ、トランプ大統領個人による寄付が確認できたのは、2016年に「Marine Corps — Law Enforcement Foundation」へ100万ドルを寄付した1例だけだった。

なお、問題となっているツイートでは「財団から18万ドル」を寄付したとあるが、トランプ財団がどれだけ寄付を行ったとしても、トランプ大統領個人の所得税が少なくなる理由はないため、ここではその真偽は検討しない。

したがって、トランプ大統領が2016年に退役軍人団体に「個人で542万ドル」を寄付したという事実は確認できない。 

寄附金控除の範囲は?

そもそも、不動産業を営み、資産家であるトランプ大統領に関し、2016年・17年の所得税額がわずか750ドルになるということはありうるのだろうか。

確かに、アメリカにおいては、慈善団体への寄付金に対する所得控除が認められているが、アメリカ内国歳入庁(IRS)のホームページを確認したところ、寄附による課税控除が認められるのは、調整後総所得(その年の全ての収入から所得調整項目(支払った養育費等)を差し引いた額)の最大50%までであり、退役軍人団体に対する寄付の場合の控除は、調整後総所得の30%までと記載があった。

In general, contributions to charitable organizations may be deducted up to 50 percent of adjusted gross income computed without regard to net operating loss carrybacks.  Contributions to certain private foundations, veterans organizations, fraternal societies, and cemetery organizations are limited to 30 percent adjusted gross income (computed without regard to net operating loss carrybacks), however.

2015年3月に作成された、アメリカの寄付金に関するニッセイ基礎研究所の資料にも「寄付した慈善団体や寄附資産の性格により控除上限は50%、30%、20%が適用される」と記載されており、2016年の税制でも寄付による控除上限が最大50%であることは変わりないだろう。

また、アメリカ連邦個人所得税の税率が10%~37%の累進課税であることからすると、所得税額が750ドルの場合の課税所得はわずか7500ドルであり、仮に寄付金控除によって50%の所得控除を受けたとしても、控除前の所得は1万5000ドルということになる。

トランプ大統領の2018年の年収は少なくとも4億3490万ドルと報じられていることからすると、2016年・17年の所得がそこまで極端に低いことは考えにくい(なお、2005年の年収は1億5千万ドル(約170億円)であったと公表されている)。

したがって、多額の寄付を行ったとしても、報道されているほど極端に所得税の額が低くなることはない。仮にトランプ大統領が退役軍人団体に多額の寄付を行い、控除を受けたとしても、所得税額が750ドルであることとの因果関係はなく、何か別の節税策を用いた結果と考えるのが自然だろう。

ニューヨークタイムズによると、トランプ大統領の所有する事業のほとんどが数千万ドルか数万ドルの損失を毎年申告しており、その損失を使って納税を回避しているという。

退役軍人へのオバマ政権の処遇は?

問題のツイートはオバマ政権で退役軍事人が不遇な目にあったとも言及している。オバマ政権下でのどのような政策を指して、退役軍人が不遇な目にあったと主張しているのか不明だが、退役軍人の民間医療プログラムを拡充したり退役軍人を太陽光発電の技術者に育成する計画を発表するなど、退役軍人支援に取り組んだことは確認できる。

結論

トランプ大統領の高額所得を踏まえれば、仮に多額の寄付を行っていたとしてもそれだけで所得税の額が750ドルになることはありえず、他の方法で節税しなければ説明がつかない。2016年に退役軍人団体に「個人で542万ドル」を寄付したとの事実も確認できていない。よって、このツイートに書かれた情報は「根拠不明」とした。

(冒頭写真:2016年1月28日退役軍人でのイベントに登壇したトランプ大統領、Fox NewsのYouTubeより)

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