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《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.59/2020.11.18)

《週刊》ネット上の情報検証まとめ(Vol.59/2020.11.18)

インターネット上で話題になった“要注意”情報を、週1回まとめてお届けします。紹介するのは、他のメディアなど第三者が調査・検証したものも含みます。アメリカ大統領選に関する情報は前号「米大統領選 特別編」も合わせてご覧ください。(大船怜ネット上の情報検証まとめ管理人)


(1)「集計ソフトがウィスコンシン州で19,032票の誤作動」

日付
11/10
発信者
アノニマスポスト(まとめサイト)
媒体
Web記事
拡散数
Twitterで3300RT
内容
<米大統領選>ミシガン州で6,000票のトランプ票がバイデン側に加算される誤作動を起こした集計ソフト、ウィスコンシン州でも19,032票の誤作動を確認」と題する記事。
引用
【検証】メディアの表示ミス 公式の集計に影響無し

この主張の発端は、米FOXニュースでの選挙速報中に起きた表示のミスにある。ウィスコンシン州ロック郡の開票速報では、ある時点でトランプ氏の得票が46649票、バイデン氏が37133票と表示されていたが、その14分後には全く逆の数字が表示された。アノニマスポストが「19,032票」としているのは、この両者の差9516票を2倍したものだ。

しかし、これはあくまでメディア側の速報のミスに過ぎず、選管が公式に集計した票数には誤りや訂正は起きていない。FOXニュースの速報はAP通信の配信を元にしていて、ファクトチェックサイトPolitiFact取材に対し、AP通信は技術上のエラーがあったが直ちに修正したと説明している(同じ記者による米紙USAトゥデイ検証も参照

ウィスコンシン州選挙委員会も、公式の選挙結果への影響を強く否定している(「2. Minor news media errors~」の項参照)。

なお、アノニマスポスト記事タイトル前半の「ミシガン州で6,000票のトランプ票がバイデン側に加算される誤作動を起こした集計ソフト」という部分も、実際は速報値の問題で票の集計は適切に行われており、またソフト自体の誤作動が原因でもないため誤りである。詳細は本連載の前号(6)を参照。


(2)「米軍、ドイツにあるドミニオンのサーバーを差し押さえ」

日付
11/14
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
1000RT
内容
トランプ大統領の元政治顧問ジョージ・パパドプロス氏の投稿を引用し、「[速報] 米軍、ドイツにあるドミニオンのサーバーを差し押さえ」とする投稿。
【検証】米軍が否定

同様の言説は有本香氏(ジャーナリスト)、西村幸祐氏(批評家)、加藤清隆氏(政治評論家)といった著名人も投稿。それぞれ数百RTされている。

この言説の発端は、共和党所属の米下院議員ルイ・ゴーマート氏のインタビューでの発言。ゴーマート氏は、スペインのソフトウェア企業Scytl(サイトル)がドイツ・フランクフルトに持つサーバーが、米陸軍に差し押さえられたとし、そのサーバーには大統領選での不正の証拠が残されていると主張。パパドプロス氏はこのサーバーについて、大統領選で広く使われていた選挙管理システム「ドミニオン」と関連付ける投稿をした。

しかし、この件を検証したAP通信取材に対し、陸軍の広報担当者は「そのような主張は誤りだ」と明確に否定。さらに、Scytlによれば、同社は現在フランクフルトにサーバーを持っておらず(2019年の欧州議会選挙の際には一時保有)、米軍による差し押さえも無く、また「ドミニオン」との関係も無いという(参考)。同様に、「ドミニオン」の提供元の会社も、フランクフルトのサーバーの存在や差し押さえの事実、Scytlとの関係をいずれも否定している(参考)。

詳細は毎日新聞による検証記事も参照。


(3)「議会が公式声明 現在のところ大統領選挙で選ばれた者はいない」

日付
11/16
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
3700RT
内容
議会が公式声明を出しました。 現在のところ大統領選挙で 選ばれた者はいません!」などとする画像付きの投稿。
引用
※アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)
【検証】議会の声明ではなく議員個人名の書簡

上掲ツイートをソースとしたまとめサイトの投稿も約6200RTと拡散されているほか、加藤清隆氏(政治評論家)、大澤昇平氏(工学者)といった著名人も同様の主張を投稿している。

しかし、画像の文書は実際には米国議会による声明ではなく、共和党所属の下院議員ジョディ・ハイス氏個人の名前で出された、連邦政府一般調達局(GSA)局長あての書簡である。

政権移行のため政府予算等の使用を新大統領に認める権限を持つGSAに対し、バイデン氏側は大統領選での自らの勝利を認めるよう求めているが、ハイス氏の書簡はこれに応じないよう請願するもので、議会の公式見解ではない。現時点でGSAを含め、公式に選挙の勝者を認定した機関はないとみられるが、民主党のナンシー・ペロシ下院議長は11月6日の記者会見でバイデン氏を「次期大統領」(President-elect)と呼称した(AFP通信)。

詳細はハフポストによる検証記事も参照。


(4)「日本のマスコミが1万人と報じたトランプ派のデモ(画像)」

日付
11/16
発信者
一般ユーザー
媒体
Twitter
拡散数
2400RT
内容
日本のマスコミが『1万人』と報じたトランプ派のデモ。」などとする画像付きの投稿。
引用
【検証】2019年の無関係の画像

この画像(左)は、実際には2019年カナダ・トロントでのバスケットボールチームの優勝パレードの様子であり(参考)、「トランプ派のデモ」とは全くの無関係だ。詳細はBuzzFeedによる検証記事も参照。

なお、14日に首都ワシントンで行われたトランプ大統領の支持者によるデモの参加人数は、メディアによって「数千人」「1万人以上」「数万人」などとばらつきがある。


(5)「有権者名簿に2万1000人の死亡者の名前があると民間団体が提訴」

日付
11/10
発信者
Techinsight(テックインサイト)
媒体
Web記事
拡散数
Twitterで2000RT
内容
死者が投票? 米大統領選の有権者名簿に2万1000人の死亡者の名前があると民間団体が提訴(米)」と題する記事
引用
※アカウント名等モザイク処理は筆者による(以下同様)
【検証】訴えは根拠無しとして既に却下

Techinsightのこの記事を元に、ツイッター速報保守速報などのまとめサイトも記事を作成。Twitterで約1500~2000RTと拡散されている。

選挙前の10月15日、ペンシルベニア州で既に死亡しているはずの人物が有権者名簿に登録されているとして、保守派団体が2万1000人分の名簿を提示し、これらの登録を削除するよう訴訟を起こしたのは事実。しかし、名簿の人物が死亡しているという根拠が原告側から示さなかったため、裁判所は訴えは同20日に却下している。

Techinsightの記事には、これらの経緯を説明したニューヨークタイムズの記事から州司法長官事務所のコメントを引用した部分もあるが、全体として原告側の主張が強調され、この訴訟が既に却下されているという事実はかなり読み取りづらくなっている。

詳細はインファクト別稿や、ファクトチェックサイトFactcheck.orgによる検証記事を参照。


(6)「電車を救った彫刻の名『クジラの尾に救われる』」

日付
11/3
発信者
AFP通信
媒体
Web記事
拡散数
Twitterで6600RT
内容
オランダで脱線した地下鉄車両の落下を食い止めた彫刻の作品名が「くしくも、『クジラの尾に救われる』だった」とする記事(修正済み、キャッシュ)。
【検証】正式名は単に「クジラの尾」 記事は既に修正

クジラの尾の形をしたこの彫刻の名は、共同通信NHKも「欧州メディア」等を引く形で同様に伝えている。海外でも「Saved by the Whale’s Tail(クジラの尾に救われる)」と伝えているメディアが少なくない(例:米紙ワシントンポスト)。

しかし、現地オランダ語のニュースではこのタイトルはほとんど見られず、作品名は「Walvisstaarten(クジラの尾)」と伝えている。オランダ紙ADでは「~救われる」の名で報じていたようだが、記者が訂正の投稿をしている。

その後、AFPは記事を更新。「作品名は『クジラの尾』であり、今回の事故を受けて地元住民によって非公式に改名された」とする彫刻作者の説明を追記している。


(7)「防衛大で大規模クラスター」

日付
11/11
発信者
NEWSポストセブン
媒体
Web記事
拡散数
Twitterで3600RT
内容
【速報】防衛大で大規模クラスター発生か コロナ対応に課題」と題し、11月7日に学生1人の新型コロナウイルス検査での陽性が発表された防衛大学校に関して、「その後、感染者は数十人規模にまで急増し、学内で隔離生活を送っていることが取材によりわかった。」などとする記事(削除済み、キャッシュ
【検証】クラスター発生の事実無し 記事は訂正・削除

記事では学生や教官らからの話を元に、「約80人の陽性者が確認された」「国内最大規模のクラスターとなることも懸念される」などと述べ、寮生活での感染対策の問題などを指摘していた。

防衛大では、学生1人が11月7日に受けた抗原検査で陽性の反応が出たことを受け、9日に「新型コロナウイルスに感染していることが判明」と発表。しかし、その後2度のPCR検査で陰性となったため、患者発生届は取り下げられ、濃厚接触者等84名も陰性が確認されたと発表している

これを受け、NEWSポストセブンは12日、記事を「非公開」とすることを発表。事実上の訂正・削除となった。詳細はBuzzFeedの記事も参照

 

(過去の回をまとめて見たい方はこちらから。次回は、2020年11月25日の予定です)

 

※この記事の調査には、インファクトの西村晴子が協力した。

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