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【コロナの時代】その時、中国当局は何を発表していたのか②〜病原体は新型コロナウイルスと特定。そして初の死者

【コロナの時代】その時、中国当局は何を発表していたのか②〜病原体は新型コロナウイルスと特定。そして初の死者

新型コロナが猛威が世界中で止まらない。その最初が中国だったことはまだ多くの人の記憶に残っている。中国は当時、どう対処し、どの様に情報を発信していたのか。(宮崎紀秀、池雅蓉 写真は中華人民共和国政府のHPから)

武漢市の衛生健康委員会が、2020年1月5日に発表した内容は以下の通り。

同日午前8時までに、原因不明のウイルス性肺炎と診断された患者は59人。

うち7人が重症、死者はいないうち最も早い発症は2019年12月12日。

最も遅い発症は12月29日すでに濃厚接触者163人を医学観察下に置いている患者の一部は、華南海鮮卸売市場の店子人から人への感染の明確な証拠はない。

医療従事者の感染はない。

インフルエンザ、鳥インフルエンザ、アデノウイルス感染症、SARS、MARSなどの呼吸器疾患を起こす病原体は除外された

1月9日、中国中央テレビや新華社通信など国営メディアが、「原因不明の肺炎の病原体が新型コロナウイルスと判断」と報じた。中国において、これは当局発表とほぼ同じと考えて良い。新華社の報道は以下の通りだった。

中国湖北省武漢市で発生した原因不明のウイルス性肺炎について、専門家チームのリーダで中国工程院院士(工学アカデミー会員)の徐建国氏は、病原検査の結果、新型コロナウイルスが今回の肺炎の病原体だと初歩的に判断したことを明らかにした。

専門家チームは7日午後9時までに実験室で一種の新型コロナウイルスを検出。同ウイルスの全ゲノム配列を取得し、核酸測定法により同ウイルス陽性15例を検出した。陽性患者のサンプル1例から分離した同ウイルスを電子顕微鏡で観察した結果、典型的なコロナウイルスの形態を確認した。

5日の発表以来、武漢の衛生健康委員会がこの肺炎について発表するのは、1月11日。新型コロナウイルスという病原体の特定を挟む形となった。そのため、1月11日の発表は、次のように始まっている。

「原因不明ウイルス性肺炎」の病原体が、新型コロナウイルスであることが判明した後、

国、省や市の専門グループが、即座に原因不明のウイルス性肺炎の診断、測定方法などを修正改善した。

その上で、感染状況を以下のように発表。初の死者が出たことも明かした。

①1月10日の24時までに、感染は41人。うち2人は退院、7人が重症、死亡1人

②濃厚接触者739人、うち医療従事者419人を医学観察下にある。発症は見られない。

③患者は主に華南海鮮卸売市場の店主やバイヤー。同市場に対し1月1日に閉鎖措置を採り、公共の場所、特に農民市場では防疫指導と衛生管理を強化

④1月3日以降新たな症例は確認されていない。医療従事者の感染、人から人への感染の明確な証拠は見つかっていない。

1月5日の段階で、59人だった感染者が11日の発表で、41人に減ったのは、新型コロナウイルスの特定を経て診断などの方法を「修正改善した」ためとみられる。だが減った18人が、何故、原因不明の肺炎患者と扱われていたのかの説明はない。

同日、上記の感染状況の関する発表とは別に、「専門家が解説する原因不明のウイルス性肺炎の最新の通達」という発表があった。その中で、感染者の症状や死亡患者の病状の変化など、更に詳しい状況を次のように一問一答形式で説明した。

Q:今回の感染症の症例はどのように診断されたのか?

A:患者の臨床症状、疫学的既往歴、病原体の検査結果に基づく総合的な判断。

Q: 今回の発生症例の臨床的特徴は?                  

A:臨床症状は発熱、倦怠感などの全身症状で、空咳を伴い、入院患者には呼吸困難が多く見られる。 入院時に大多数の患者のバイタルサインは安定している。

Q:現在、死亡例が1件あるが、具体的にはどのようなケースか?

A:患者は61歳の男性で、呼吸不全、重度の肺炎、腹部腫瘍、慢性肝疾患で入院した。 この患者は、武漢の華南海鮮市場で何年も前から商品を購入している。入院後、 対症療法、抗感染症、人工呼吸器補助、継続的にECMO体外生命維持療法を施したが、症状は改善せず、2020年1月9日夜に心停止、死亡した。 病原体検査では新型コロナウイルス核酸の陽性が示された。 死亡診断は、重症肺炎、急性呼吸窮迫症候群(重症)、敗血症性ショック、多臓器不全、重度の酸塩基代謝障害、肝硬変であった。 死亡の直接の原因は呼吸器循環不全。

Q:「2020年1月3日以降、新たな症例が確認されていない」とはどういうことか?

A:国家、省、市の専門家による疫学調査によれば、武漢市の原因不明のウイルス性肺炎はすべて2019年12月8日から2020年1月2日の間に発症した。 2020年1月3日以降、臨床・疫学調査の結果によれば、新たな感染発症者は見つかっていない。

Q: 「人から人に感染する明確な証拠がない」とはどういうことか?

A: 国家、省、市の専門家による疫学調査によれば、武漢での原因不明のウイルス性肺炎の発症者の多くは、華南の海鮮市場への訪問歴があり、これまでのところ、人から人への感染の明確な証拠は見つかっていない。現在も更なる疫学調査や関連する臨床検査を実施している。また、医療従事者を含むすべての濃厚接触者は、これまでに発症は見つかっていない。

人から人への感染の明確な証拠は見つかっていない」という判断がこの時点でも繰り返された。新型コロナウイルスが人から人へ強い感染力を持つことは、今となっては、周知の事実だ。この点においては、武漢市衛生健康委員会の発表は、新型コロナウイルスに対する誤った印象を与える内容だった。

(続く)

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