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【コロナの時代】ワクチンを接種した

【コロナの時代】ワクチンを接種した

ワクチン接種がなかなか進まない日本。現在は医療従事者と65歳以上の高齢者への接種が行われている。65歳以上の接種を体験したInFactの山崎秀夫理事がその状況をルポする。(山崎秀夫)

ワクチン接種まで

21年4月1日、町役場から薄紫に白抜きで「新型コロナウイルス感染症ワクチン接種のご案内」と印刷された封筒が二通届いた。私が住む群馬県長野原町は人口5500人の典型的な田舎町だ。「おっ、意外に早く来たな」という感だった。他の市町村に住む知人の中では私が最も早く通知を受け取ったとようだ。

A4版の大きな封筒には『クーポン券在中』と書かれていた。中には、国が作成したと思われる『ワクチン接種までの流れ』、クーポン券4枚が貼付された台紙、さらに長野原町からの『ワクチン接種のご案内』がセットになった、合わせて5ページの冊子が入っていた。

国が示す接種までの流れは以下だ。

  • 接種可能な時期を確認する。
  • 医療機関/接種会場を探す。
  • 予約をして、ワクチン接種。

「コロナワクチンナビ https://v-sys.mhlw.go.jp」 で確認して欲しいと書いてある。

「ネット環境にない高齢者は恐らくここでつまずくだろう」。

そう思いつつ中身を確認した。クーポン券の台紙には1回目、2回目用の接種券と診察した結果接種できなかった時の券、計4枚のシールが貼付されていた。台紙には接種したワクチン情報のシールを貼るスペースがあり、接種したらそこにシールを貼るということだ。

長野原町からの『ご案内』に書かれている接種会場は一ヵ所だけだった。日程は書いていない。

通知が届いた翌日にコールセンターに電話した。運よく直ぐに繋がり、最初の接種日である4月20日14時15分からの枠で予約が取れた。

後日、コールセンター担当者と話したところ、当地でもコールセンターへの接続は難しかったようだ。私は運がよかったようだ。多くの高齢者が次回6月以降の接種に回されたということだった。

もう1つ、小さな封筒の中も確認。その中に一回目、二回目の2枚の予診票が入っていた。インフルエンザワクチンと同様な予診票だ。既にコロナワクチンを接種したか、接種順位の上位である医療従事者、65歳以上の高齢者、基礎疾患を有する等に該当するかについての確認を書き込む様だ。

この予診票の右上にクーポン券を貼る欄があり「点線に沿ってまっすぐに貼り付けてください」と書いてある。これは接種後に担当者が貼るものだが、誤って接種前に自分で貼ってしまう人もいるかもしれない。

ワクチン接種の案内冊子と予診票を別送したことの意味については正直、理解できなかった。

接種会場に行った 

そして接種。会場は町役場に隣接した住民総合センター(280席)だった。予約の際に「会場に早く来ても入れません」と言われたが遅れるわけにはいかない。25分早く到着した。

会場の外で待機したが、受診者が途切れた際に予約より早く会場に入れた。受付で持参した書類を確認した後に入場する。

経過観察エリアにはすでに接種を終了した20人ほどが待機していた。予約制限が適切に行われたのだろう、会場内の人の流れはスムーズだった。

会場内外のソーシャルディスタンスは十分に保たれ、椅子の消毒も頻繁に行われていた。

最初のコーナーで本人確認と予診票確認を行う。設問ごとに説明を受けながらチェックした後、接種希望欄にサインする。

次に医師コーナーに移動し、予診票に基づいた診察とワクチンの効果、副反応に関する説明を受ける。

「9割くらいの人が接種個所に痛みを感じるが一日くらいで消滅する」

「強い痛みが何日も続くようなら県のコロナワクチンダイヤルに連絡する」

「発熱は一回目には少ないが二回目でリスクが高まるらしい」

医師からこうした説明を受けた。

この医師は既にワクチン接種を終えているということで、後に腕の痛みを経験したそうだ。ニュースでは「痛みは無い」という報道ばかりな印象だったのだが、やはり痛みは出るのかと思った。

「発熱した場合に市販の解熱剤を使ってよいのでしょうか?」

そう質問したところ、「それでよろしい」とのことだった。医師の説明は5分ほどで終わった。

いよいよワクチン接種だ。呼び出しデバイスを渡される。レストランで渡されるものだ。そして待つ。

いよいよ接種

椅子に座った直後にデバイスが鳴り、別室の接種場へ呼び出された。待ったのは1分程度だろう。

そしていよいよワクチン接種だ。看護師に指示されて座る。シャツを脱いで下着をまくって右肩を出した。

接種は看護師と言葉を交わしている間に終わった。痛みは全く感じなかった。正直、針を刺されたことにさえ気づかなかった。そうした報道を多く見たが、それは事実だった。

接種会場から出た後にクーポン券の台紙を確認すると「ファイザー製コミナティ筋注ET3674、最終有効年月日2021/07/31」というシールが貼られていた。ファイザーのワクチンが接種されたということだ。

ワクチン接種後は経過観察エリアで30分間の待機となる。異変の有無を担当者が観察しているので椅子から移動はできない。座って待つ。

30分経過すると呼び出されて2回目接種の説明を受けた。周囲を見ていたが、特に異常を訴える人はいなかった。午後1時55分に入場し午後2時35分に退場したので、所要時間は40分だった。

帰宅後に感じた痛み

接種の時間は午後2時5分だった。その後しばらくは異常を感じずに帰宅したのだが、夜になって状況は変わった。

午後9時頃から接種した上腕に違和感が表れ始め、午後10時には針を刺した場所の広い範囲が痛み始めた。触れても腕を動かしても筋肉痛のような強い痛みを感じた。

腕を自由に動かすことができない。

車の運転や腕を使う作業はできない。パソコンのキーボードの入力も大変だった。しかし、接種した個所の腫れや発赤は現れなかった。上腕の痛み以外の副反応はなく、体温や血圧の変化も無かった。

痛みは翌日の昼前まで続いたが、その後急速に改善。接種から24時間経過した午後2時頃には完全に回復した。ワクチンは家族全員で一度に受けない方が良いと言うが、それは私の経験からも言える。少なくとも24時間は体調に異変が起きる可能性が有るというのが私の体験から言えることだ。

接種から見えた課題

高齢者ワクチン接種を始めた自治体の多くで混乱が起きていると報道されている。郵送で届いたワクチン接種の案内は国と自治体の情報が併記された冊子だが、国からの情報は自治体の状況を考慮せず画一的に作成された印象がある。この冊子を受け取った住民の中に様々な齟齬が生じる可能性を感じた。

冊子にはスムーズなワクチン接種を行うのに必要な最低限の情報だけを記載すべきだろう。読むと、国と自治体で表現が異なる個所が多く、これを受け取った高齢者が混乱するのではないか。

例えば、封筒や台紙に印刷された『クーポン券』とは台紙にシールとして貼付されている『接種券』のことだ。接種券で統一すべきだろう。

国は「市町村からの広報やインターネットで、ワクチンを受けることができる医療機関や接種会場を探しましょう」と書いているが、同じ冊子の自治体からの『ご案内』にはコールセンターと接種会場名が記載されていたりする。

自治体によって書式が異なるとしても「コールセンターの電話番号と接種会場名を冒頭に記載すること」と国から自治体に指示しておけば、記載内容について国と自治体の意思を統一することは可能だ。

例えば、冒頭紹介した冊子1ページ目の国からの案内に含まれる①接種可能な時期を確認する、②医療機関/接種会場を探す、③予約して、ワクチンを受ける、の三項目は記載する必要も無い。むしろこの項目が有ることで、高齢者の混乱を増長させたと感じる。

ワクチン接種は自治体主導で実施されている。自治体の『ご案内』だけで十分に理解でき、国からの案内は不要だろう。

自治体職員に大きな負担がかかることも指摘する必要が有る。接種会場を見ただけで大変な作業であることが分かった。接種会場だけでなく接種通知、接種後の書類確認等の業務が今後続くことになる。

感染防止策を講じながらワクチン接種をスムーズに進行させるためには多くの人材が必要だ。接種会場で戸惑う高齢者のケアも担当者の大きな負担になる。

会場の出口で、三人の職員が並び「ご苦労様でした」と送り出してくれた。殆どの高齢者が車で来場する地域なので、この様な見送りも接種者の体調を最終確認するためには重要なのだろう。しかし、大変な作業だ。職員の頑張りには頭が下がる。

これを書いている時点で首都圏の高齢者を対象とした大規模接種会場が大手町合同庁舎に設置され、自衛隊によって運営されると報道されている。高齢者の会場への移動、本人確認、2回行う接種の確認、接種後の体調管理などの問題が山積している。特に、すでに始まっている自治体による接種と新たに行われる大規模会場での接種をうまく整合できるのか懸念される。

一歩間違えると、ワクチン接種の事業をさらに混乱に陥れる危険性も危惧される。この試みが成功裏に完了できることを祈りたい。

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