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岸田首相のアキレス腱となる政治資金      【政治と金の研究⑩】

岸田首相のアキレス腱となる政治資金      【政治と金の研究⑩】

岸田総理は衆議院を解散。選挙で与党で過半数を維持して改革に着手するとしている。しかし仮に政権を維持しても、うまくいくか疑問は残る。岸田総理の政治資金の支援者には、大手家具チェーンや医師会の政治団体が名を連ねるからだ。そこに改革のアキレス腱を見ることは可能だ。(写真・文/立岩陽一郎)

新政治経済研究会

岸田文雄総理は自民党広島県第一選挙区支部と、いくつか関連する政治団体で政治資金を管理している。

このうちの選挙区支部を、公表されている中で最も新しい2019年の政治資金収支報告書(以下、収支報告書)で見ると、その年の収入は約4338万円。そのうち自民党本部からの交付金が1632万円。企業献金が800万円余。個人の献金は66万円余で、その他はある政治団体からの寄附だ。

その政治団体とは新政治経済研究会。住所は東京都千代田区永田町2-2-1。つまり岸田総理の議員会館の部屋だ。この団体が、岸田総理の政治資金の中核と言って良い。

新政治経済研究会の収支報告書表紙

その団体の政治資金を見ることは、すなわち岸田総理の政治と金を見ることになる。それを2019年の団体の収支報告書から読み解く。

先ず、その年の収入は1億3684万円余。これは先の自民党総裁選の候補者を比較した記事で指摘したが、河野氏、高市氏、野田氏の3候補と比べて突出して大きな額だった。さすが派閥の領袖と言うべきか。

巨額なパーティー収入

注目すべきはその収入の内容だ。そのうちの約1億3265万円がパーティー収入。つまりほとんどが政治パーティーを開いて得た収入ということだ。

2019年のパーティー開催は8回。それを見ると、4月25日は2880万円、8月29日は約2516万円、12月12月は約3318万円を得ている。これだけの収入のパーティーを年に何度も開ける政治家は限られている。同じ年の菅前総理でも1000万円を超える収入のパーティーは開いていない。これが派閥の長の実力とも言えるが、問題はその実態だ。

2019年のパーティー収入(一番下の64万円は前年の収入)

これらのパーティーの経費は1411万円余でしかない。利益率が9割となる計算だ。実は、パーティー収入は実態としては、合法性を装った企業献金ではないかとの指摘は以前からある。企業献金は政治団体には認められていない。このため、企業がパーティー券を購入することで事実上の企業献金を法規制を免れる形で行っているとの指摘だ。勿論、支持者が個人として購入して参加したケースも有るだろうが、それだけでこれだけの資金、つまり人を集められるのか?

数字を示すと更にわかりやすい。パーティー券は1枚2万円が相場とされる。仮に企業が5枚買えば10万円が支払われる。利益率が9割となるとそのうちの9万円が利益・・・という計算だ。

前述のパーティーの1つを事例に更に掘り下げてみたい。

12月12日のパーティー。東京・港区のANAインターコンチネンタルで「第33回衆議院議員岸田文雄と国政を語る会」として開催され、前述の通り約3318万円の収入を得ている。

出席者数は900人。このパーティーの開催にかかった費用はいくらか?印刷代と会場費の合計で255万7857円。その収入から経費を差し引いた収益額は3000万円を超える。利益率は92%。つまり、ほとんどが収益ということだ。

勿論、これを理由に企業献金だと指摘することはできない。900人の個人が集まってそれぞれで費用を出しているということも否定はできない。

ニトリホールディングスの存在

その前提の上で記すが、企業がパーティー券を購入している事実も収支報告書から確認できる。これは20万円を超える支出については記載が求められているためで、4月25日のパーティーに際しては大手家具チェーンの(株)ニトリホールディングスが150万円を支出している。同社は8月29日にも150万円支出している。

2019年の収支報告書から

この年の合計は300万円。勿論、これはパーティー券の購入であって企業献金とは位置付けられていない。合法ということになる。しかし、利益率をあてはめて計算すると岸田総理の側にもたらされる利益は270万円だ。こうなると企業献金と何が違うのかわからなくなる。

因みに、この企業からの支援は確認できるだけで2013年にさかのぼる。次の様になる。

ニトリホールディングスによるパーティー券購入

7年間で支援額は1550万円。大口の支援者と言って良い。因みに、この(株)ニトリホールディングスの会長の似鳥昭雄氏は米フォーブス誌の調査による日本の資産家50位で8位にランクされている。その総資産は5730億円とされる。

岸田総理は自民党総裁選の時に新自由主義との決別の目玉として掲げていた金融所得課税の強化を所信表明演説から落とし、その後の代表質問でも消極的な姿勢を示した。今後、資産家にマイナスとなる金融所得課税はどうするのか?大口の支援者である資産家の声を無視して推進することは可能なのか?

日本医師会の政治団体からの支援

このパーティー収入で、もう1つ目立つのが日本医師連盟だ。4月25日のパーティーに際して50万円、8月29日にも50万円、12月13日にも50万円を支出している。合計150万円で、利益率から計算すると135万円の収入をもたらしている。その支援は確認できる範囲でも、2012年までさかのぼることが可能だ。

2019年の収支報告書から

日本医師連盟は日本医師会の政治団体だ。活動の目的に、「本連盟は、日本医師連盟と称し、日本医師連盟会員相互の全国的連携・協調の下、日本医師会の目的を達成するために必要な政治活動を行うことを目的とする」と書かれている。

新型コロナ対策は引き続き政府にとって最重要課題だ。岸田総理も所信表明演説で「与えられた権限を最大限活用し、病床と医療人材の確保、在宅療養者に対する対策を徹底します」と述べている。病床確保などで日本医師会の対応が不十分だとの指摘も有る。改革を進める上で日本医師会に厳しい姿勢を示す必要も有るだろう。こうした特別な支援を受けていて日本医師会に適切に臨むことが可能なのだろうか?

こうした疑問を念頭に「新政治経済研究会」に以下の質問をした。

①収入に占めるパーティー収入が多いのが特徴かと思います。このパーティー収入は収益率が9割近く事実上の献金ではないかとの指摘も有ります。仮にそうだとすると、企業が購入している部分は実態としては企業献金にあたるとも考えられます。その点についてどうお考えでしょうか?

②そのパーティー収入に関して日本医師連盟から多額の資金を得ています。ご承知通り、この団体は日本医師連盟会員相互の全国的連携・協調の下、日本医師会の目的を達成するために必要な政治活動を行うことを目的とする業界団体です。新型コロナへの対応を考える際には日本医師会にも厳しい対応を求める必要が有るわけですが、支援を受けている立場として日本医師会も巻き込んだ改革ができるのか不安を感じます。その点について如何お考えでしょうか?

③同じことはニトリホールディングスについても言えます。一国のリーダーとして特定の企業から多額の支援を得ることは好ましいとは思えませんが、この点について如何お考えでしょうか?今後について対応を変えるお考えは有りませんでしょうか?

その結果、以下の回答を得た。

政治資金は、法令に従い適正に処理し、その収支を報告しているところです。ご質問の趣旨は、政治資金パーティーや寄附の質的量的制限にかかる貴社のご意見だと拝聴しました。いずれも立法事項であり、国会において与野党が議論された結果が現在の政治資金規正法になっています。いずれにしましても、今後も引き続き法令に従った適正な政治活動を行ってまいります。

新政治経済研究会からの回答

政治と金はアキレス腱

回答の冒頭にある通り、この収支報告書は法律に違反していると言えるものではない。実態として企業献金ではないかという疑いは残るが、違法だと指摘できるわけではない。また、収支報告書は細かい点まで丁寧に記されており、そこに誠実な姿勢を感じるのも事実だ。また、回答の内容はともかくとして、取材には逃げずに応じている。これは前の政権には見られなかった点だ。

そうした誠実な姿勢を捨てることなく、「信頼と共感を得られる政治」を実践できるのか。この言葉は所信表明演説で落とされることなく語られた岸田総理の言葉だが、その為には政治と金の透明性の確保は不可避だ。それがなければ、政治と金は岸田総理のアキレス腱になる。

蛇足になるが、その理由を書いておく。こうした政治資金をなぜ集めるのか?それは一言で言えば岸田総理の議員としての政治活動を支えるためということになる。その政治活動の中で重要なのが、自民党の他の議員の支援だ。新政治経済研究会の収支報告書には「パーティー券代」と書かれた支出が並ぶ。これは他の自民党議員の重要な収入源となる。その対象は岸田派の議員に限っていない。

その積み重ねが岸田総理の党内の権力基盤の確立につながっているのだ。

2019年の収支報告書から

いうまでも無く岸田総理の誕生は、自民党総裁の就任によってもたらされている。つまり支援をしている側からすれば、それは「誰のおかげで総理大臣になったのか?」ということになる。

政治と金。これは回答にある「貴社のご意見」と切って捨てられるほど簡単な話ではない。

※収支報告書の撮影は筆者。なお、過去の収支報告書については(公)政治資金センターのデータを活用している。※

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