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ワクチンに関する厚生労働省の発表から死亡数等の情報が無くなった【ワクチンのファクト⑤】

ワクチンに関する厚生労働省の発表から死亡数等の情報が無くなった【ワクチンのファクト⑤】

厚生労働省が定期的に定期的に発表していたワクチン接種後に発生した副反応。その内容が10月に入って急遽、「心筋炎・心膜炎」に限定され、これまで発表されていた死亡数などの情報が無くなった(田島輔)

10月15日の報告内容

新型コロナワクチンの副反応に関する検討部会は、2021年2月26日から約2週間に1度の頻度で定期的に開催されている。
10月1日までの検討部会までは、ファイザーやモデルナ製の新型コロナワクチン接種後の副反応疑いにについて、報告された副反応疑い総数、重篤数、死亡数などの詳細が報告されていた(10月1日の検討部会での報告内容)。

10月1日の検討部会では、ワクチン接種後の死亡事例はファイザー製が1157件モデルナ製が33件と報告されている。
また、重篤事例についてもファイザー製が4395件モデルナ製で359件発生していることも報告されている。具体的な症状についても、アナフィラキシーや心筋炎等だけでなく、100以上の具体的な症状が報告されていた。

ところが、10月15日に開催された直近の副反応検討部会の報告では、「心筋炎・心膜炎」に関する情報しか報告されていない。

上記の画像は10月15日の検討部会のページだが、この日に公開された資料は10月1日に公開された資料と比べて明らかに少ないことが分かる。

このシリーズで伝えてきた様に、過去の検討部会では副反応疑いについて死亡や重篤事例の総数を報告しつつ、特定の症状についは別途詳細を報告していた(アナフィラキシー事例血栓症事例)。
そのため、今回の検討部会でも、これまで同様に死亡や重篤事例の総数を報告した上で、心筋炎に関する詳細な報告を行うことは可能な筈だ。

心筋炎等が疑われた報告頻度の比較は適切か?

さらに、10月15日の検討部会で報告された資料の内容にも疑問がある。

心筋炎の副反応疑い報告の資料中には、「心筋炎・心膜炎」に関し、新型コロナワクチン接種後の発症疑い報告件数と、新型コロナウイルス感染に伴う発症報告件数を比較する棒グラフが掲載されている(以下のグラフ)。

上記の棒グラフを見ると新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎報告件数は100万人あたり3.7件から28.8件であるのに対し、日本国内における新型コロナウイルス感染症発症に伴う心筋炎・心膜炎は100万人あたり834件と圧倒的に多いことになる。

しかし、この新型コロナウイルス感染に伴う心筋炎・心膜炎の発生頻度が「100万人あたり834人」という数値を単純に鵜呑みにして良いのかは疑問だ。

なぜならば、新型コロナウイルス感染に伴う心筋炎等の発生率を算出する際の母数が、新型コロナウイルス感染と診断され入院した15歳~40歳の症例4798人と極めて限定されているからだ(以下の10月15日の検討部会に提出された資料の30p)。
4798件のうち4人に心筋炎関連事象が発生しており、この数値を根拠に「100万人あたり834人」という心筋炎等の発生頻度が計算されている(4÷4798×100万)。

入院者数や心筋炎等の発症数自体も「COVID-19に関するレジストリ研究」に参加する限られた医療機関から提出されたデータを基に算出されているようであり、対象人数の総数もわずか38,432人(男性21,950人、女性16,482人)にしかすぎない。
そのため、「100万人あたり834人」という心筋炎の発生率が、新型コロナウイルス感染時の心筋炎等発症の実態を表した数値と言えるかは不明だ。
なお、2021年10月18日時点で退院又は療養解除となった者の累計は1,688,963人である(男女の内訳は不明)。また、年代別で何人が入院しているのかも不明だった。

さらに、新型コロナワクチン接種後の心筋炎発生頻度(100万人あたり3.7件から28.8件)が10代・20代男性を対象にした数値であることに対し、新型コロナウイルス感染に伴う心筋炎・心膜炎の発生頻度(100万人あたり834人)が、15歳~40歳未満の男性を対象にした数値であることにも注意が必要だ。

新型コロナワクチン接種後の心筋炎等発生頻度(100万人あたり3.7件から28.8件)が、10代~20代でワクチンを接種した全人数を母数に算出されていることに鑑みれば、新型コロナ感染時の心筋炎等発生頻度も、新型コロナに感染した全て人数を母数に算出すべきだろう(新型コロナワクチン接種した10代~20代の人数は不明だが、推定接種回数は資料の4p・5pに記載がある。年代別の心筋炎関連事象の発生数は7p・8pに記載がある。)。
10月12日時点で、新型コロナウイルス陽性者の累計は10代男性が93.551人、20代男性が228,449人だが、そのうち何人に心筋炎等が発生しているのかは不明だった。

なお、海外での新型コロナウイルス感染に伴う心筋炎等発生頻度100万人あたり450人というのは、アメリカの大学における研究報告によるものだ。しかし、アメリカと日本では新型コロナ感染者数や死亡者数が全く異なる。どの程度、この数値が日本での参考になるかも不明だ。

厚生労働省の回答

副反応検討部会において「心筋炎・心膜炎」以外の副反応が報告されなくなったことについて、厚生労働省に問い合わせたところ、健康局健康課からは以下の回答があった。

副反応検討部会のテーマについては都度決めることになっており、今回は「心筋炎・心膜炎」をテーマにするということになりました。次回以降、副反応疑い全体の報告を行うかどうかは、今後、決定することになります。

新型コロナウイルスワクチンの副反応検討部会は、予防接種法第13条2項等に基づいて行われているものだが、その審議内容は法令に定められているものではなく、厚生労働省の裁量に委ねられている。そのため、厚生労働省自身の判断で、副反応検討部会で審議する範囲・内容を決めることも出来るし、そもそも開催の有無を決めることも可能ということだ。

InFactで連載しているこの「ワクチンのファクト」はワクチン接種に反対するものでもワクチンの危険性を指摘するものではない。ワクチン接種を進めるためにも実態を可能な限り明らかにし透明性を確保することが不可欠だと考えている。

InFactでは、引き続き新型コロナワクチンの副反応疑総数や死亡事例報告を再開する予定はあるのか等、副反応検討部会の審議内容について詳細を問い合わせている。厚生労働省から回答があり次第、追記する予定だ。

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